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調和振動子に対する多重度関数

なんとなくキッテルの熱物理学第2版を再読してみています. せっかくなので式を追いながら読んでいるのですが, 1章の調和振動子の多重度関数を求める例題(p.20)で気持ちが分かるまで少し考える必要があったので, 補完した情報を備忘録として残しておきます.

前提と求めたい表式

量子数 \(s\) を正の整数かゼロとし, 調和振動子のエネルギー固有値を \(\epsilon_{s} = s \hbar \omega\) とする. \(N\)個の振動子を考え, \(n = \sum_{i = 1}^{N} s_{i}\) とした時, 全励起エネルギー

\[ \epsilon = \sum_{i = 1}^{N} s_{i} \hbar \omega = n \hbar \omega \]

が振動子に分布する仕方の数, すなわち多重度関数 \(g\left(N, n\right)\) を知りたい. 結果は,

\[ g\left(N, n\right) = \frac{\left(N + n – 1\right)!}{n!\left(N – 1\right)!} \]

である.

多重度関数を \(t\) を用いた表式で表す

まずはおもむろに \(t \left(|t| < 0\right)\) を導入し, \(g\left(N, n\right)\) を \(t\) を用いた表式で表すところを考える. この \(t\) は最終的には式から消えるが, 式展開の中で2つの大きな役割を演じ, 一つは無限等比級数の和の公式を使用する場面, もう一つは \(\lim_{t \rightarrow 0}\) や \(n\) 階の微分でほとんどの項が消される場面だが, 導入時点ではこの目的が分かりづらい. 調和振動子に対する多重度関数 \(g\left(N, n\right)\) について, 以下の式が成り立つと主張がされる.

\[ \left(\sum_{s = 0}^{\infty} t^{s}\right)^{N} = \sum_{n = 0}^{\infty} g\left(N, n\right) t^{n} \tag{1} \]

(1)式の右辺を展開する.

\[ \sum_{n = 0}^{\infty} g\left(N, n\right) t^{n} = g\left(N, 0\right) t^{0} + g\left(N, 1\right) t^{1} + g\left(N, 2\right) t^{2} + g\left(N, 3\right) t^{3} + \cdots \tag{2} \]

(1)式の左辺を展開する.

\[ \begin{eqnarray} \left(\sum_{s = 0}^{\infty} t^{s}\right)^{N} &=& \underbrace{ \left(1 + t + t^{2} + \cdots\right) \cdot \left(1 + t + t^{2} + \cdots\right) \cdot \cdots \cdot \left(1 + t + t^{2} + \cdots\right) }_{N} \\ &=& a t^{0} + b t^{1} + c t^{2} + \cdots \end{eqnarray} \]

\(t^{0}\) の項の個数は \(1\) のみの積で一通りしかないし, \(t^{1}\) の項の個数は \(N\) 個なので, 暗算でも \(a = 1, b = N\) となるのは分かる. \(c\) はもはや暗算では厳しいが, \(c\) とはつまりどういう係数の数え方をするかというと, 正の整数かゼロを \(N\) 個集めた時に合計が \(2\) となるような組み合わせの数を数えている. これは今考えている \(g\left(N, 2\right)\) の定義と同じなので, \(a = g\left(N, 0\right), b = g\left(N, 1\right), c = g\left(N, 2\right), \ldots \) と書ける. 従って,

\[ \left(\sum_{s = 0}^{\infty} t^{s}\right)^{N} = g\left(N, 0\right) t^{0} + g\left(N, 1\right) t^{1} + g\left(N, 2\right) t^{2} + \cdots \tag{3} \]

となる. これで(1)式が成立することが確認できた.

\[ \left(\sum_{s = 0}^{\infty} t^{s}\right)^{N} = \left(\frac{1}{1 – t}\right)^{N} \]

については, これはただの無限等比級数の和である.

\(n\) 階の微分と極限を用いて多重度関数から \(t\) を消去する

\(t\) を消去しにかかるが, 本文中では「次のようにすればよい」と書かれて以下の表式がある.

\[ g\left(N, n\right) = \lim_{t \rightarrow 0} \frac{1}{n!} \left(\frac{d}{dt}\right)^{n} \sum_{s = 0}^{\infty} g\left(N, s\right) t^{s} \tag{4} \]

右辺の一部を展開する.

\[ \sum_{s = 0}^{\infty} g\left(N, s\right) t^{s} = \underbrace{ g\left(N, 0\right)t^{0} + g\left(N, 1\right)t^{1} + g\left(N, 2\right)t^{2} + \cdots }_{ \left(\frac{d}{dt}\right)^{n} \mbox{によって消える項}} + g\left(N, n\right)t^{n} + \underbrace{ g\left(N, n + 1\right)t^{n + 1} + g\left(N, n + 2\right)t^{n + 2} + \cdots}_{\lim_{t \rightarrow 0} \mbox{によって消える項}} \]

\(t^{n}\) の前後の項は微分や微分後の極限の操作によって消去され, 残った項の \(t^{n}\) は \(n\) 階の微分により \(n!\) になり、\(\frac{1}{n!}\) で打ち消されて, 最終的に \(g\left(N, n\right)\) となり, (4)式が成立する. あとは式変形だけで,

\[ \frac{d}{dt} \left(1 – t\right)^{-N} = (-N) \cdot \left(1 – t\right)^{-N-1} \cdot (-1) = N \cdot \left(1 – t\right)^{-(N+1)} \]

のように地道に微分をしていけば,

\[ g\left(N, n\right) = \frac{1}{n!} N(N+1)(N+2) \cdots (N+n-1) \]

となり,

\[ g\left(N, n\right) = \frac{\left(N + n – 1\right)!}{n!\left(N – 1\right)!} \]

を得る.